商標業界の厄介者(!?)

こんなニュースがありました。


群馬県太田市が「おおたBITO 太田市美術館・図書館」を今年10月に開業予定していたところ、既に他人が商標出願をしていたため、この名称の使用を断念したというものです。

商標出願は早い者勝ちなので、こういうことは往々にしてあり得ます。ドンピシャ同じ商標だけでなく、類似する商標も対象となるので、実務上登録の妨げになる理由のうち最も多いもののひとつです。

今回太田市がどのような態様で図書館名を使用するつもりだったのか正確なところはわかりませんが、いずれにせよ『BITO』と同一又は類似の先行出願はたしかにあります。

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商願2015-084840。商標は『BITO(標準文字)』。

指定役務には「図書検索システムの提供」が含まれており、このあたりが図書館事業と被るのでしょう。

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第42類に「図書検索システムの提供」が含まれている。

他にも、商願2015-054371では『BIT(標準文字)』が出願されていますが、こちらには類似する役務が含まれていないかもしれません(面倒なので調べていません)。


とまぁこういうことは実務上起こり得る問題で、「スパっと諦める」から「商標や指定商品役務を調整する」「先行出願を潰す」「先行の出願人と交渉する」などいろいろな選択肢があるのですが、今回は何が問題なのかというと、出願人がベストライセンス株式会社だという点なんですよね。

この会社、業界では非常に有名です。とにかく商標出願をしまくっているんです。なんと、2015年だけで8,130件!(出願件数1位)。しかもこの会社の代表者(未確認)である上田育弘氏個人の名義でも同様に出願をしまくっていて、その数6,656件!(出願件数2位)。この2者だけで、なんと1年間に14,786件もの商標出願をしているのです。
※いずれの件数も、年末時期の出願が公開されれば更に増える可能性があります。

今日の段階でわかる範囲で、2015年の全商標出願件数は113,467件ですから、たった一人で日本の全商標出願の約13%をしていることになります。


これ、もしちゃんと印紙代を払っていれば、仮にすべて1区分だとしても12,000円/件かかりますから、出願料だけで177,432,000円(1億7千万円以上!)もかかることになります。実際どうしているのかわかりませんが、経過を見るとどれも特許庁から補正指令が出されていることから、出願料を払わずに出願をしてとりあえず出願日だけ確保しているのだと思われます。

しかもそれらから分割出願をして少しずつ指定商品の範囲を狭めながらひたすら出願を継続させているものもあって、正直何がしたいのかよくわかりません。そもそも出願料を払わなければそのうち出願却下になるはずで、そのような出願に基づいて子・孫・ひ孫と分割出願を継続させ続けられるのでしょうか。そんなことはしたことがないのでよくわかりません。


とにかく少しでも話題になったキーワードや他人が欲しがりそうな単語は、日本ではすぐにベストライセンスに出願されてしまいます。これも去年だったと思いますが、『AAMAIL』〜『ZZMAIL』まで、26×26=676種類の『◯◯MAIL』をすべて出願していました。類似範囲まで後願排除効が及ぶので、新しいメールサービスを始めようとすると何かに引っかかってしまうかもしれません。そうして困った人からライセンス交渉などの打診があって初めて印紙代を払っているのかもしれません。制度上は許されますが、さすがに商標法ではそういう出願方法は想定していないでしょう。

どうせいずれ出願却下となるので無視しておけばいいのでしょうが、これだけ大量の出願をされてしまうと、日頃の商標調査業務でも結構な確率で引っかかってきてしまい、正直迷惑しています。引っかかってしまった場合にクライアント様にどう説明すればいいかというのは悩ましい問題で、おそらく無視して出願しても審査待ちの数ヶ月の間にベストライセンスの出願は却下されているでしょうから問題ないケースが多いはずなのですが、分割分割で出願が残ったりしてしまうと、登録にならない出願に基づいて本願が拒絶される(まぁ先行出願が登録にならなければ拒絶にはならないのですが、こちらに拒絶理由が発せられた段階で印紙代を納付するかもしれません)リスクはどうしても残ってしまいます。

今回の太田市のケースでも同様の悩みがあったのでしょう。対応コストやイメージ毀損などのリスクを考えると、早めに名称変更に踏み切ったのは妥当な判断だったように思います。しかし新名称も公募すれば同じようにベストライセンスに先に出願されてしまうので、そのあたりどうするのがよいかは本当に悩ましい問題です。いまの時代クローズドな選定には風当たりが強いですし、オープンに募集すれば今回の二の舞いになります。太田市が自ら応募案をすべて「出願料を払わずに」出願して、最終的に選んだものにのみ料金を後から支払うベストライセンス方式を採用するのが唯一の解決策に思われますが、もちろん実際にはそんなことはできないでしょう。

このような出願には法的に対応してほしいところですが、現行の商標法には直接対応できる規定は見当たりませんし、真面目に仕事をしていても納付番号などを間違ってしまうこともたまにはありますので、そういうケースへの救済がなくなってしまうのも困ります。なにか良い解決案はないものでしょうか。

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