商品商標と小売役務商標の関係 – 新年のご挨拶に代えて –

あけましておめでとうございます。
本年も皆様のお役に立てるよう精進して参りますので、どうぞよろしくお願いいたします。


さて、本年一発目のテーマは、商品商標と小売役務商標の関係です。去年最も問い合わせの多かったテーマのひとつです。(なお正確には卸売を含むので小売役務といいますが、あまり重要でないので本稿では小売役務といいます。)

例えば、「セーターの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」を指定して商標登録した場合に、当該商標権に基づいて「セーター」についての商標の使用を排除できるのか、という疑問です。

なぜそんなことを考えるのか、素直に「セーター(第25類)」を指定すればいいじゃないかと思われるかもしれませんが、取扱商品の幅が広い場合、区分が複数にまたがるので権利取得や維持にかかるコストがかさんでしまうという問題があるのです。小売役務ならば指定するのはあくまでも「小売」というサービス*なので、いくら商品の範囲が広くても第35類に含まれ、1区分の料金のみで済むというメリットがあります。

* 正確には、現在の日本の商標制度では「小売」という役務は指定できません。小売自体は業種を表すに過ぎず、「小売」というサービスは存在しない(それ自体が独立して取引の対象となるものではない)ので、論理的に「小売」を指定役務とすることができないからです。あくまでも小売という商売に付随する様々なサービスを指定するだけですが、ここでは細かいことはともかく「小売」を役務として表現します。


上記のような相談をたくさん受けるのですが、弁理士的な観点からはかなりずれた発想で、そんなわけわからないことを考えなさるなと言いたくなります。ただし、あくまでも登録のテクニックとしては、一考の余地があるのかもしれません。


そもそもなぜこんなことが問題になるかというと、審査段階で、小売役務と商品の類否をクロスサーチすることから、権利行使段階でも同様に類否が語れるのではないかという疑問が生じるからです。

すなわち、審査段階では、「セーターの小売」という役務は、「セーター」という商品と類似するとされます(その逆も然り)。それならば権利行使段階でも同様ではないのかと考えられるわけです。たしかに、商標法4条1項11号と同37条1号は表裏一体ですから、説得力のある考え方です。

この点について実際はどうなのかを複数の専門家に相談してみたのですが、正直なところ、よくわかりません。なにせ裁判例等がまだないので、権利行使できるかもしれないし、できないかもしれないとしか答えられないのです。ただし、相談した方々の約半数は「できる(可能性がある)」と言っています。

主な理由は、「審査段階で類似ならば、原則として権利行使段階でも類似でないとおかしい」という、至極もっともなものです。ただし小売役務に関しては、審査段階で類似とされる理由に特別な事情があるので、もしかしたら解釈が異なるかもしれません。「できない」と考える残り半分の専門家の方はその点を指摘しています。

そもそも、審査段階で小売役務と商品の類否を見るという運用は、日本の商標制度の中でもかなり特殊です。例えば、「自転車の修理」という役務と「自転車」という商品は類似しません。「かつ丼の提供」という役務と「かつ丼」という商品も類似しません。もちろん商品と役務が類似することは理論上あり得る(商2条6項)のですが、かなり限定的なケースです。なぜ小売役務だけ特別かというと、小売役務制度が導入されるまでは、小売役務を商品商標で保護してきたという経緯があるからです。例えば高島屋のような何でも売っているデパートでは、あらゆる商品を指定して商標登録をしていました。以前は、小売(要は転売)は商売ではないという考え方が世界中に根強く、商標法で直接保護されなかったので、商品商標に含めていました。商標の使用の定義には「譲渡」も含まれるので、このような運用でも矛盾はありません(もっとも指定商品に対して商標を使用しているかという点には議論の余地がありそうです。裁判例では使用していると言っていますが…)。

ところが、平成19年に小売役務が導入され、「小売」については、従来の「商品商標」と、新設された「小売役務商標」の二本立てで保護されることになりました。実はこの二本立てが混乱を招く元になっています。特許庁の解釈を見てみると、商標の使用態様によってどちらか一方に分類されると考えているようです。

例えば、お店の看板やショッピングカート、店員の制服などに商標を付した場合、小売役務商標として保護されます。これこそが小売役務商標導入の目的です。これらは特定の商品と結びついていないため、商品商標では保護しづらいという点が問題となっていました。

一方で、商品そのものに商品を付す場合は、従来どおり商品商標として保護されます。その意味で、小売役務制度が導入されても、これまでに保護されていた部分の範囲は変わりません。特許庁によれば、例えばセーターの織ネームに商標を入れる場合はいうまでもないですが、流通段階にある商品の包装紙や値札に商標を付した場合も商品商標となります。

つまり、前者の場合の指定役務は「セーターの小売」となり、後者の場合の指定商品は「セーター」となるのです。

そうすると、もし「審査段階で類似するならば権利行使段階でも類似する」と考えるならば、小売役務商標を登録すれば、商品に対して商標を使用する者に対しても権利行使できることになりますし、同様に、商品商標を取得すれば、看板等について商標を使用する小売業者に対しても権利行使できることになります。後者は、商品商標の権利範囲が広がったことを意味するわけですが、本当にそうなのか(裁判所がそう判断するのか)は疑問です。

例えば「セーター」について『ABC』という商標登録があるとして、その商品を扱ってすらいないアパレルショップが店名に『ABC』を用いると、この商標権を侵害するのでしょうか。そこに何らかの出所の混同が生じるとは考えられません。小売役務制度が導入されるまでは商標権侵害とはなりませんでした。同制度導入後でもこれを商標権侵害とは言いづらいでしょうから、同様に、前者(つまり小売役務商標を商品に付す行為)も権利侵害とは言うべきではないとも考えられます。少なくとも『ABC』の周知性くらいは要求してもいいと思います。


結局のところ現状ではどうなのか誰にもわからないわけですが、おそらく「小売役務商標を取得しておけば商品に対しても権利行使できる」とはならない可能性が高いと思われます。少なくとも一定の条件・制約が課されるでしょう。

それに、そもそも小売役務と商品の類否をクロスサーチする運用自体が暫定的なものであり、将来変更となる可能性が高いので、その段階で死んだ権利になると指摘する弁理士の先生もいらっしゃいました。また、そのような登録方法だと、登録後3年間経過後には不使用取消審判を請求されてしまうので、そこで費用負担が生じます(もちろん権利行使もできません)。

商標の出願や登録に掛かる費用など大したことがないので、そこをケチって高額の審判費用を負担することになるのはまったくの無駄です(特許事務所としては単価の安い出願でサービスして後々高単価の審判で回収するというモデルが成立するのかもしれませんが、誠実ではありません)。

商標制度を正しく理解して、「商品に商標を付すならば商品商標」を、「小売業に付随するサービスに商標を用いるなら小売役務商標」を選択しておくのが、長い目で権利内容でもコストの観点からもお得です。

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